ClientEarth
2026年3月4日
2026年3月4日、一般社団法人クライアントアースは「日本における気候スチュワードシップの進展 ― 5年間の気候変動株主提案がもたらした法的知見と会社法改正審議のゆくえ ―」と題したウェビナーを開催した。国内外から約60名が参加し、機関投資家、法曹界、環境団体など多様な立場から、日本における気候関連株主提案の5年間の展開が議論された。
株主提案が示した企業ガバナンスへの影響
2021 年以降、日本企業に対する気候変動関連の株主提案は、投資家が企業の行動変容を促す主要な手段の一つとなっている。
一般社団法人クライアントアースの理事である弁護士山下朝陽氏は、株主総会の形骸化を防ぐという1981年の株主提案権の導入当時の考え方、定款変更の形式による株主提案の「勧告的機能」、現代の会社定款になぜ気候プリンシプルを定めることが適切であるかを説明した。
定款変更の株主提案が否決されても、ソフトロー上の説明責任がもたらされる場合がある。50%以上の賛同を得た場合、取締役は既存方針の「変更が勧告」される。20%以上の支持を得た場合、企業は方針の「維持または変更について説明」する責任をもたらす。
投資家の視点:株主提案は対話が行き詰まった時の選択的な手段
英リーガル・アンド・ジェネラルは、2024年に日本で、気候・エネルギー分野における政策関与の透明性と説明責任の向上を求める株主提案を共同提出した。リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント・ジャパン(LGIMジャパン)のインベストメント・スチュワードシップ部長、福田愛奈氏は、投資家の立場から株主提案の位置づけを説明した。
「わたしたちは株主提案を頻繁に用いるわけではありません。対話で進展が得られず、他の手段では前進が期待できない場合に、取締役会に説明や対応の改善を求めるための 『選択的なエスカレーション手段』として活用します。要請内容が明確で、他の株主からも支持を得やすいものであれば、建設的な変化につながる可能性が高まると考えています。」
福田氏は、企業の政策エンゲージメントのガバナンスや透明性、さらに気候戦略との一貫性にも課題があると指摘した。政策関与の取り組み(直接のアドボカシー活動と業界団体を通じた間接的な活動)が、企業の気候目標とどのように結びついているのかは、投資家にとって把握しにくい領域であるという。
日本企業の移行戦略:課題と前進
マーケット・フォースのアジア気候・エネルギーアナリスト、鈴木幸子氏は、日本企業の移行計画の課題と、株主エンゲージメントによる変化を紹介した。
主な課題として、2050年ネットゼロに向けた具体的な移行計画の不足や、取締役会の気候監督能力の不透明さが挙げられる。また、日本が化石燃料輸入に依存する構造が、エネルギー安全保障のリスクにもつながっていると指摘した。
一方で、企業側から投資家との対話を求めるケースも増えており、過去5年間において日本の企業や金融機関の石炭関連事業からの撤退、石炭火力融資停止の決定といった前進に株主提案が寄与した。
現在、法務省法制審議会の会社法制部会では株主提案制度の見直しが議論されている。特に、株主提案権を行使できる株主の株式保有要件のうち、300議決権を廃止し、総議決権の1%以上に限る案は、現行の株主提案の約80パーセントを排除する可能性がある。300議決権を1,000あるいは1,500議決権に引き上げる案も、個人株主、NGO株主には影響が大きい。株主総会における決議ルールの変更によって、株主の修正動議、質問権にも影響が及ぶ。
福田氏は、株主提案要件の引き上げは、『誰が提案できるか』の変化を通じて、株主総会で扱われる内容そのものを狭めかねないと指摘した。ガバナンスや開示、気候リスクなど、これまで少数株主や幅広いポートフォリオを持つ機関投資家が取り上げてきたテーマが議題に届きにくくなる懸念があるという。
山下弁護士は、今回の会社法改正案が株主総会の形骸化そのものを目指しているという懸念を指摘した。会社法改正案は、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの流れに逆行し、株主総会のあり方を大きく変容させる可能性がある。
今後に向けて
一般社団法人クライアントアースは、企業の取締役向けに「日本の取締役のための気候行動ガイド」を2026年春に公開予定だ。企業の取締役会が気候変動リスクと機会に適切に対応するための法的・実務的な指針を示すものとなる。