ClientEarth
2024年10月3日
環境に関する法律専門家集団クライアントアース(東京都港区)は、政策立案者がクライメート・トランジション・ファイナンスにおける世界的な規制のギャップを埋め、市場におけるグリーンウォッシュの広がりに対処するための「クライメート・トランジション・ファイナンスのグリーンウォッシュに対処するための保護策」(日本語版)を発表しました。
2024年6月に発表された英語版の報告書は、ラベル付きトランジション・ファイナンスにおける「トランジション・ウォッシュ」(グリーンウォッシュ)について詳細に分析しています。
本報告書は市場基準を引き上げ、信頼できる移行を実行している企業への資本流入を確保するための実践的な政策手段を提言しています。ネットゼロへの移行が急務となっている現状において政策立案者がラベル付き移行ファイナンスの可能性を広げる上で役に立つことを目指しています。
トランジション・ファイナンスの債券(サステナビリティ・リンク・ボンドや日本のラベル付きトランジションボンドなど)は、炭素集約度の高い産業におけるサステナビリティへの転換や世界経済の脱炭素化への資金供給を実現する大きな可能性秘めています。
しかし、トランジション・ウォッシュ(パリ協定に沿った信頼できる移行を実行していない事業体に移行資金を提供すること)は、投資家の信頼を損ない、市場の成長を停滞させ、資本配分の誤りを生じさせることで地球規模の気候変動目標達成を遅らせ、または阻害するおそれがあります。
本報告書では、トランジション・ウォッシュが広がりつつある主な要因として、明確な政策的保護策の欠如を挙げています。
また、より包括的で世界規模で協調された移行を促進し、エネルギー貧困や失業を防ぎ、誰一人取り残されないことを目標にし、各国が気候変動対策のリーダーに対して差別化された基準を設ける必要性を強調しています。
クライアントアースの弁護士で、本報告書の主執筆者であるアレックス・ロンボスは、次のように述べています。「クライメート・トランジション・ファイナンス市場を自らの取り締まりだけに任せておくことはできません。健全性を早急に回復し、トランジションに失敗した企業への資金流入を阻止するためには、堅固な基準が必要不可欠です。
特に債券市場におけるトランジション・ウォッシュに対する効果的な政策的保護策に関する私たちの提言は、現実的な解決策を提供するものです。強固な規制の枠組みが、炭素集約度の高い産業における新たな競争の場を生み出し、その利用にインセンティブを与えることにより、気候変動への移行を加速することができることを示しています。」
投資家と市場の健全性へのリスク
トランジション・ウォッシュは、投資家を経済的損失と風評被害にさらすことになりかねません。厳しい基準を維持する堅固な規制がなければ、投資家からの信頼は失墜し、クリーンな移行に向けた資金の流れが滞ることになります。たとえ信頼が維持されたとしても、グリーンウォッシュは資本配分の誤りを生じさせ、パリ協定に基づく地球規模の気候変動目標の達成を阻害する可能性があります。
本報告書では、こうしたリスクに対処し信頼性を回復するための6つの政策的保護策を提案しています。保護策は、既存の市場手段を規則改革で補完するものであり、貸付市場、株式市場、ファンド市場などにおけるトランジション・ウォッシュへの対応策を検討する政策立案者にとっても有益なものとなるでしょう。
「これらの保護策は、堅固なトランジション・ファイナンスのルールブックの必要性と、複雑で変化しやすいクライメート・トランジション・ファイナンスへの対応に必要な実用性を考慮した政策の枠組みを構築することを目的としています。このような枠組みがなければ、トランジション・ファイナンスは、パリ協定に沿った実体経済におけるネットゼロ移行を促進することはできないでしょう」とランボスは付け加えています。
トランジション・ウォッシュに対処するための保護策
報告書では、推奨される6つの政策的保護策を概説しています。
保護策を用いることで、堅固な規制はより広範にネットゼロへの移行を推進できる新たな競争の場を創出し、その利用にインセンティブを与えることができます。
また、効果的な規制の枠組みは投資家に力を与えることができます。なぜなら、こうした枠組みは、ラベル付きトランジション・ボンドが影響力を持つ可能性が高く、トランジション・ウォッシュリスクにさらされる可能性が低い金融部門を投資家が特定するのに役立つからです。加えて、「イギリス・サステナビリティ・リンク1.5℃ボンド」のような管轄権ラベルは、英国の規制枠組みがより意欲的で信頼できると見なされれば、持続可能な投資市場においてより大きな信頼を得ることができます。
詳細な分析と提言を含む報告書の全文はこちら からご覧ください。
本件に関する問い合わせ先
一般社団法人クライアントアース
Raphael Soffer
メールアドレス:rsoffer@clientearth.org
注記:
トランジション・ファイナンスは一般的に、ネットゼロへの移行の目的で、排出量の高い経済事業、業界、又は国家に対し提供されるファイナンスと解されています。一般的に低もしくはゼロ排出の経済活動およびプロジェクトに分けて提供されるグリーンファイナンスとは、異なるものとなります。